時の音

第1章: 異空間


東京の静かな街角、路地を入ると車の喧噪とは離れ、昔ながらの古い家並みが続く。
IT企業に勤める佐々木達也25歳は、緑色の屋根の小さな入り口の骨董店、「時の音」で足を止めた。
ショーウインドウに不思議なアイテムを見つけたためだ。
何もない空中に蛇口が浮かんでおり、水が流れている。
達也は軽い衝撃を受けた。
物理的にあり得ない。
じっと凝視するが、原理が分からない。
いつの間にか、店主らしき老人が近くに来ていた。
「分かりますか。」
「・・・」
「水を止めてみましょう」
店主は言って店の奥に入っていった。
蛇口の水の流れが徐々に小さくなる。
「あ、」
水の形状が円筒型になった。
蛇口は透明なパイプで支えられているのである。
分かってみれば簡単な仕組みだ。
店主を追って、達也は思わず店内に入った。

「いらしゃいませ」
店主は笑いながら、声をかけてきた。
店内は、ひんやりとした空気がはりつめている。
中には、年代物の机、椅子、木工細工の化粧箱から、陶器類まで並べられている。
部屋の隅にある古びた置き時計を見つめている。
骨董品のようであるが、動いている。
「この時計はどうやって動いているか分かりますか」
「ゼンマイか、電池だろう。」
店主は、時計を傾け、蓋を開いて言った。
「見てもいいですよ」
達也がのぞき込む。
目を凝らして見ると、木箱の中は空っぽだった。
「何も入っていないのですか。」
達也はじっくりと中を眺め回した。
仕組みはどうなっているのであろうか。
表面の時計は動いているのに、動かす部品はない。
しばらく考えた後で、達也は尋ねた。
「これはどんなトリックですか。」
店主はうつむいたままで答える。
「仕組みは、私も分かりません。」
「これは、先祖から受けついている時計です。」
「今まで誰にも見せたことはありませんでした。
予期せぬことに、今日はあなたに見せてしまった。」

気がつくと店主は、不思議そうな目で達也を眺めている。
「気のせいかもしれないが、時計の動きがおかしい。」
店主は、不思議そうな顔で時計を見つめている。

突然、店主は言った。
「今日は早めに店仕舞いをしよう。」
「申し訳ありませんが、できれば帰っていただけないでしょうか。」

達也は急に言われ、戸惑いながら答えた。
「分かりました、面白いものを見せていただき、
ありがとうございます。」

店を出た途端、達也の周りを町の熱気が包む。